パーキンソン病の治療

社会の高齢化とともに増えている『パーキンソン病』。 手足が震えたり、体がスムーズに動かせなくなったりするパーキンソン病には効果的な治療薬があります。 早期に発見して、薬による治療を適切に行えば、症状を改善しながら、日常生活を大きな支障なく送ることができます。 最新のガイドラインでは、診断基準も新しくなり、近年の新しい治療法も盛り込んだ標準的治療が示されています。


■パーキンソン病とは?

パーキンソン病は、脳の神経に異常が生じて様々な運動障害が現れる病気です。 患者さんは年齢とともに増えることが知られており、社会の高齢化に伴って患者数が増えています。 日本では、現在、約20万人の患者さんがいると推定されています。
パーキンソン病の代表的な症状は「じっとしているときに手足が震える(静止時振戦)」「筋肉がこわばる(筋強剛)」「動作が遅くなる(運動緩慢)」 「姿勢を立て直すのが難しくなる(姿勢保持障害)」などの運動障害で、進行すると、日常生活に支障が生じてきます。 その他睡眠障害、立ちくらみ・排尿障害・便秘などの感覚障害が現れたり、鬱・不安・幻覚などの精神症状や認知機能の障害などが現れることもあり、 レビー小体型認知症を合併することもあります。最近では、パーキンソン病の前触れとして、感覚の低下や寝言が現れることがあるのもわかってきました。
パーキンソン病は、脳の神経細胞が情報のやり取りをするのに必要な物質の一つ「ドパミン」の量が減ることによって発症します。 ドパミンは、体をスムーズに動かしたりバランスを保ったりするために脳の指令を全身の筋肉に伝える働きをしている物質で、 脳の奥の方にある「黒質」という部位で作られています。 パーキンソン病では、この黒質の神経細胞が壊れて、ドパミンの量が減ります。 神経細胞は、加齢とともに誰でも自然に減っていきますが、パーキンソン病を発症する人は、通常より若いうちから黒質の神経細胞が壊れて、ドパミンが減ってしまいます。 神経細胞が早くから壊れる根本的な原因はまだ解明されておらず、現在のところ、パーキンソン病は、発症すると病気自体を治すことはできません。 しかし、早期に発見して適切な治療を行うことで、多くの患者さんは病気をコントロールしながら、元気に日常生活を送れるようになってきています。


■どう治療する?

パーキンソン病の治療は、症状を抑える「薬物療法」が中心になります。 基本となるのはドパミンの不足を補う薬です。脳に入ってドパミンに変わる「L・ドパ(レボドバ)」と、 脳内でドパミンを受け取る受容体を刺激して神経伝達の働きを補う「ドパミンアゴニスト(ドパミン受容体作動薬)」があります。 パーキンソン病の運動障害はドパミン不足から起こるので、それを補うL-ドパは最も効果が高く、早く効きます。 ただし、長く使っていると、薬の効果が速く切れて症状が出る「ウェアリングオフ」や、薬が早く効き過ぎた時に体が勝手に動いてしまう 「ジスキネジア」が現れることがあります(運動合併症)。 一方、ドパミンアゴニストはそれらの問題は起こりにくいものの、副作用では幻覚、妄想などが現れることがあるため使いにくいことがあります。 これらの薬で症状を抑えられない場合には、必要に応じて、ドパミンを効率よく使うための薬や、症状を軽減するための薬などが補助的に用いられます。 そのほか、脳に細い電極を入れて電気刺激を送る「脳深部刺激療法」や2016年に登場した、胃ろうを介して腸へ持続的にL-ドパを注入する 「L-ドパ持続経腸療法」などの治療法もあります。そうした治療と併せて積極的にリハビリテーションを行って、体を動かし続けることが勧められます。


■治療開始のタイミング

早くから薬物療法を始めて、良好な状態を保つ

『パーキンソン病の治療』は、症状の改善を目的に行われます。 中心となるのは『薬物療法』で、ドーパミンの不足を補う薬を基本に、それを効率よく使うための薬や症状を軽減するための薬を必要に応じて加え、 生活の質を維持していくことを目指します。 かつてパーキンソン病は「発症したら数年で動けなくなって寝たきりになる」といわれていましたが、治療が進歩し、 現在では早期に発見して適切な治療を行うことで、多くの患者さんが10年、20年と、自立した生活を目指せるようになっています。

パーキンソン病の薬物療法では、以前は”症状が軽いうちは薬を使わない”という考えが主流でした。 なぜなら、パーキンソン病の治療薬には、病気の原因となる「ドーパミン神経の減少」自体を回復させる効果はないので、 ”根本的治療にならない薬を早期から使う利点はない”と考えられていたからです。 しかし近年では、パーキンソン病と診断されたら”症状が軽くても早めに薬物療法を開始すべき”という考えに変わってきました その根拠となるのが、パーキンソン病を発症して間もない人々を対象に薬の効果を調べた臨床試験です。 試験の結果、薬を使った人では当然症状が改善しましたが、薬を使わなかった人では症状が悪化しました。 さらに、40週間後に薬を中止し、体内に残った薬の効果が消えた2週間後に症状を調べたところ、どちらの群も症状は悪化したものの、 薬を使った群のほうがより軽い症状に抑えられました。このことから、早期に薬物療法を始めるべきだと考えられるようになったのです。 非常に軽いパーキンソン病の場合には、まずは運動療法から始めることもありますが、ほとんどの場合、診断がわかった時点で薬物療法を開始します。

病状が進行して、通常の薬物療法では症状のコントロールが不十分になった場合には、脳深部刺激療法(DBS)」と呼ばれる手術が行われることもあります。 この治療では、脳に細い電極を入れ、胸部に埋め込んだ刺激発生装置から電気刺激を送って神経細胞の動きを促します。 また、最近では、胃ろうを介して腸に細い管を送り込み、薬を注入する機器を使って、ドーパミンを持続的に補う治療が登場し、新たな選択肢となっています。 こうした治療と併せて、近年は、積極的にリハビリテーションを行うことが勧められています。 身体を動かして楽しく過ごすことは、症状の改善にもつながります。 なるべく早期から体を動かす習慣をつけることで、体力や運動機能を維持し、より長く元気に暮らせるようになります。


■手術による治療

症状のコントロールが難しい場合には、手術の検討も

L-ドパによるウェアリングオフや不随意運動が起こりやすい場合や、症状のコントロールが難しい場合には、「脳深部刺激療法(DBS)」という手術が検討されます。 手術が必要になる患者さんは、パーキンソン病の患者さん全体の10%以下です。 脳の深部にあるドーパミンに関係する部位に電極を埋め込み、胸には刺激装置を埋め込んで、それぞれをワイヤでつなぎ、 刺激装置から弱い電流を流して脳に刺激を与えることで運動機能を改善します。 手術後は、5年に1回程度、簡単な手術によって刺激装置の電池交換が必要になります。 この手術も薬物療法と同様、病気を根治する効果はないので、通常は手術後も薬を併用して症状をコントロールします。